ひらめきは“静けさ”から生まれる|創造力を高めるヒーリングミュージックの力

脳の “デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)” を活かす音楽

医学博士で音楽療法士の板東浩です。

デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という言葉を聞いたことはありますか?
何もしていないとき、ぼんやりと考えごとをしているときに活性化する、脳のネットワークのことです。実はこのDMNこそが、創造性やひらめきの源といわれています。

ひらめきは、静かな時間にふと訪れるもの。忙しさの中では見過ごしてしまう“気づき”が、ぼんやりとした時間の中で芽生えることがあります。そんな「静けさの中のひらめき」を支える存在として、ヒーリングミュージックがあります。今回は、医学博士の視点から、創造性を高める音楽の力に迫ります。

※補足:デフォルト(default)という言葉は、日本語では少しわかりにくいかもしれません。政治・経済では「債務不履行」、ITでは「初期設定」や「標準設定」という意味で使われます。たとえばスマートフォンで、最初から選ばれているアプリや設定などが“デフォルト”です。本コラムで扱うDMN「デフォルトモードネットワーク(default mode network)」は、こうした意味とは異なり、脳科学の専門用語であり、“ぼんやりしているとき”に活発になる脳のネットワークを指します。

目次

ひらめきは「何もしない時」に生まれる

ヒトの脳は、小宇宙(ミクロコスモス)とも呼ばれるほどに複雑で、想像以上に豊かな働きをしています。中でも注目すべきは、何かに集中しているときではなく、ぼんやりしているときに活性化する「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という神経回路です。

DMNは、自己認識や過去の振り返り、未来の想像に関与し、創造性の源泉ともいえる働きを担っています。たとえば、うたた寝の数秒で長い夢を見ることがありますが、これは脳が休んでいるのではなく、内的情報処理が活発に行われている証拠。

つまり、脳は何もしないように見える時間こそが、情報が交差し、ひらめきが生まれる最適なタイミングなのです。この“静かなる活動”をいかに活かすかが、創造的な発想力を高める鍵となります。

DMNを活性化するきっかけ

・目的なく窓の外を眺めているとき
・静かな音楽や自然音を聴きながらぼんやりしているとき
・ふと立ち止まり、これまでの出来事を思い返しているとき
・通勤中など、決まった行動を無意識に繰り返しているとき
・寝入りばなや目覚める直前の“まどろみ”の中

こうした何気ない時間に、意識の奥から新たな気づきやアイデアが立ち上がることがあるのです。

ヒーリングミュージックが“考えすぎ”をほどく

ヒーリングミュージックは、DMNの働きを妨げず、むしろ穏やかに促す性質があります。ポイントは、聴く人の意識を外界ではなく内面へと向かわせる音の特徴。たとえば、心拍に近いBPM60前後のテンポや、安心感を与える繰り返しのパターン、和音の持続、そして刺激の少ない穏やかな音色。これらは、脳の緊張をほどき、自然とDMNの活性化を後押しします。

ヒーリングミュージックに耳を傾けていると、初めは断片的だった思考が整理され、次第に“気づき”が生まれてきます。この状態では、「考えすぎ」による思考の渋滞が解け、ひらめきや直感が顔を出しやすくなるのです。

音楽は意識をひらく“鍵”であり、思考を自由にする“余白”でもあります。

音の特徴

・ゆったりしたテンポ(BPM60前後):心拍に近く、心が落ち着きやすくなります。
・反復性のある構造:繰り返しが安心感を生み、内面に意識を向けやすくします。
・和音の持続:音の変化が少なく、注意を外に向けにくくします。
・穏やかな音色:刺激が少なく、感情を静かに整えます。

出典:Taruffi, L., Pehrs, C., Skouras, S., & Koelsch, S. (2017). Effects of Sad and Happy Music on Mind-Wandering and the Default Mode Network. Scientific Reports, 7, 14396. https://doi.org/10.1038/s41598-017-14849-0

医学博士が薦めるヒーリングミュージックをご紹介

医学博士が薦める疲労回復ヒーリング〜Sound Treatment Everyday〜
脳のストレス解消ヒーリング mindfulness

職場にも“ひらめきの余白”をつくる

創造性は職場でも必要不可欠。にもかかわらず、過度な集中やストレスによって、ひらめきの余地が奪われていることも。そこで注目したいのが、「マイクロレスト(短時間の休息)」と音楽の活用です。

たとえば、自然音やピアノのヒーリングミュージックを静かに流すことで、気分が落ち着き、ストレスが和らぎ、DMNが活動しやすくなります。これは、脳にとって“自由な空白”が与えられたような状態。

さらに、視覚や聴覚の刺激を最小限に抑えた空間づくりも、静かな思考を支える環境となります。忙しい職場にこそ、ひらめきのための“余白”を意識的に設けることが大切です。

音楽が整える空間と時間が、創造的な働き方と持続可能な集中力を支えてくれるのです。

ひらめきを生む職場づくりのヒント

・1曲分の休息:数分の音楽を聴き、目を閉じるだけで脳が整いやすくなります。
・自然音のBGM:鳥の声や水音が緊張をほぐし、DMNを後押しします。
・視覚の整理:デスクを整え、自然光や暖色系の照明で空間に静けさを。
・ノイズ対策:雑音を減らすと“内なる声”に集中しやすくなります。

自然音やピアノのヒーリングミュージックをご紹介

疲労回復のためのヒーリング 〜自然の音に癒されて〜
心やすらぐ落ち着くピアノ

おわりに

デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)は、瞑想やマインドフルネス、ヨガとも深い共通点がある脳の働きです。これらと同様に、静かな音楽や自然音も私たちの無意識にやさしく働きかけ、思考や感情を穏やかに整えてくれます。
音は単なる癒やしではなく、内面の静けさを支える“補助的な媒体”として機能します。


そして、音に包まれたひとときの中で、意識の奥に眠っていた気づきや発想がふと立ち上がってくる——。
“音の空間”は、そんな静かな変化を促す場所なのです。


私たちの思考はやさしく整理され、癒やしとともに新たな発想が静かに芽吹いていくのです。

Supplement…

癒やしの映像と音楽でリフレッシュタイム・・・

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執筆

板東 浩(ばんどう ひろし)のアバター 板東 浩(ばんどう ひろし) 医学博士 日本統合医療学会四国支部長

徳島県糖質制限研究会代表 ​ 徳島大学卒業、ECFMG資格取得後、米国でfamily medicineを臨床研修。専門領域はアンチエイジング、糖質制限、音楽療法、スポーツ医学など。アイススケート選手として国体出場(1999 ~ 2003)。第9回日本音楽療法学会大会長(2009)。第3回ヨーロッパ国際ピアノコンクール(EIPIC)in Japan銀賞(2012)。日本プライマリ・ケア連合学会大会長(2017、高松)。 日本心身医学会 中国四国地方会大会長(2023)。糖尿病関係の英文医学雑誌4誌のEditor-in-Chief(編集長,2024)。著書30冊以上、印刷物2,000以上、英語論文500以上。「新老人の会」徳島代表。

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