仕事復帰を支えるのは「音楽」と「夫婦の対話」、 心筋梗塞後の心理的回復に、音楽療法が効果示す

ポイント
急性心筋梗塞からの職場復帰を目指す若年・中年層において、音楽を取り入れたケアが、気持ちの安定や日常生活へのスムーズな適応を助ける効果があることが示されました。
さらに、夫婦で支え合う「ダイアディック・コーピング」の取り組みによって、関係の質や二人の幸福感も高まることが分かりました。
音楽を通じて感情を分かち合うことで、心の回復が促され、二人で歩む力が再出発を後押ししたとされています。

 心筋梗塞からの回復を支える新たな方法として、「音楽」と「夫婦のつながり」が注目されています。
 急性心筋梗塞を経験した患者とその配偶者に対し、音楽療法と、夫婦の協力関係を深める「ダイアディック・コーピング(Dyadic Coping)」という方法を組み合わせたケアを行うことで、職場復帰や心の安定を後押しできることが、中国の病院における研究で明らかになりました。
 この研究成果は医学誌2025年5-6月に発表され、心と体の両面から回復を支える新たな看護アプローチとして関心を集めています。

目次

回復に「心のつながり」と「音楽」の力

 急性心筋梗塞とは、心臓に血液を送る血管が詰まり、心臓の働きが急激に低下する病気です。この病気を発症すると、心機能の低下に加え、それまで通りの生活を取り戻すことが難しくなることもあります。治療後の回復には、身体的なリハビリだけでなく、精神面の立て直しや家族による支え、そして社会復帰に向けた多面的な取り組みが求められます。
 今回の研究では、患者と配偶者を「一つのユニット」として捉える看護アプローチである「ダイアディック・コーピング」に、音楽療法を組み合わせた介入の効果が検証されました。
 ダイアディック・コーピングとは、夫婦やパートナーが互いに支え合い、ストレスや困難を共に乗り越える関係性を重視する方法です。今回の研究では、看護師が患者と配偶者それぞれの悩みや不安を丁寧に聞き取り、感情表現の傾向に合わせた支援が行われました。具体的には、病気に関する基礎知識の共有、対話の機会の提供、共同での問題解決といった取り組みを通じて、心のケアが図られました。
 研究は、中国江蘇省・無錫市にある病院で実施され、2024年1月から6月にかけて、急性心筋梗塞の診断を受けた患者とその配偶者、60組を対象としました。対象となったのは、若年から中年層(18歳から59歳)の患者とその配偶者で、いずれも心筋梗塞からの回復後に職場復帰を目指していた方々です。
 参加者は無作為に2つのグループに分けられました。一つは、夫婦の関係性を重視したケア「ダイアディック・コーピング」のみを実施する「DC群」、もう一つはそれに音楽療法を組み合わせた「DCMT群」です。DCMT群では音楽両方が組み合わされます。
 DCMT群の患者には、リラックス効果のある音楽が選定され、毎日30~40分間、イヤホンを使ってリラックスした環境で音楽を聴く時間が設けられました。その後、配偶者とともに感じたことを共有するセッションも行われました。
 期間は2週間で、評価は職場復帰から1週間後に実施されました。

心の絆が整うことで、生活全体の質が上がる

 音楽療法をダイアディック・コーピングと組み合わせたケアは、心筋梗塞後の心理的な回復を大きく促すことが明らかになりました。
 具体的には、心の安定度を測る指標であるPAIS-SRの合計スコアは、DC群で59.98点、DCMT群で48.76点となり、DCMT群の方が有意に低く(※スコアが低いほど心理的適応が良好)、心理的負担の軽減が示されました。また、夫婦関係の質を示すLWMATや全体的な幸福感を測るGWBSスコアも、音楽療法を取り入れたグループで向上することが分かりました。
 研究チームは、音楽が言葉では表しにくい感情をやわらかく引き出すことで、カップル間に信頼や共感が生まれ、それが心理的な安定につながった可能性を指摘しています。さらに、音楽を通じて感情を共有することで、日々の生活全体が落ち着き、患者自身の幸福感も高まったとしています。
 この研究では、音楽療法とダイアディック・コーピングを組み合わせたケアが、急性心筋梗塞からの回復に大きな効果をもたらすことが示されました。このように、音楽療法は単なる気晴らしではなく、回復を支える「心のリハビリ」としての役割を果たしていることが、データからも裏付けられました。今後は、病後ケアにおいて、心の回復とパートナーシップの維持を同時にサポートする実践的なアプローチとして、より広く活用されていくことが期待されます。

参考文献
Wang C, Luo F, Song M, Wang R, Zhang Y, Li X, Qian X. Role of Music Therapy Combined with Dyadic Coping in Enhancing Psychosocial Adaptation and Marital Well-being for Young and Middle-aged Patients Returning to Work after Acute Myocardial Infarction. Noise Health. 2025;27(126):223–232. doi:10.4103/nah.nah_182_24
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40574293/

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執筆

星 良孝(ほし よしたか)のアバター 星 良孝(ほし よしたか) ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト

ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。

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