職場に潜む。うつ病・対人障害・パニック障害。音楽の効果と予防。

医学博士で音楽療法士の板東浩です。

「職場に潜む心の病」

あなたの心は大丈夫ですか?
気づかぬうちに蓄積したストレスが、うつ病 や 対人障害、パニック障害 といった心の不調を引き起こしているかもしれません。現代社会では、仕事のストレスからこれらの症状を発症する人が増えており、「職場」 は見えない心のリスクを抱える場所になっています。

そんな心の不調に、「音楽」 がやさしく寄り添ってくれることをご存知でしょうか? 音楽には、ストレスの緩和や心のバランスを整える力があり、予防や改善にも役立つことがわかっています。

このコラムでは、医学的な視点から「音楽の効果と予防」について紐解き、職場でも手軽に実践できる音楽療法のヒントをご紹介します。

目次

音楽には「心を癒やす力」がある

それは単なる感覚ではなく、科学的な根拠に裏付けられた事実です。音楽は心をリラックスさせるだけでなく、ストレスの軽減や感情の安定にも役立つことが研究で明らかになっています。

そして、この音楽の力は、医療の現場でも活用されています。音楽療法は、単に症状を和らげるだけでなく、「人に寄り添う医療」の一環として、患者の心に深く働きかける手法として取り入れられています。

患者の心に寄り添う医療

この「患者の心に寄り添う」姿勢を私に教えてくださったのが、師匠である 聖路加国際病院の日野原重明先生です。日野原先生は、日本に プライマリ・ケア(PC)医学 を導入し、「全人的医療」を提唱されました。医療は単に病気を治すだけではなく、患者の心や生活環境にも寄り添うべきだという信念を貫かれた方です。

先生がよく引用された言葉に、「小医は病気を治し、中医は病人を直し、大医は国を治す」 という中国の古い教えがあります。これは、医療の本質が個人だけでなく、社会全体に目を向けるべきだという考え方を示しています。

この 日野原先生の哲学 に近い理念として思い出されるのが、高木兼寛(たかぎ かねひろ) の残した 「病気を診ずして病人を診よ」 という言葉です。高木兼寛は、英国留学中に医師と看護婦が協力して診療する重要性を学び、帰国後に成医会講習所や日本で最初の看護婦教育所を創設しました。東京慈恵会医科大学の創立者として、この理念は現代にも受け継がれています。この言葉は、単に病気の症状を見るのではなく、患者そのものに寄り添うことの重要性を説いています。

音楽療法が届ける「心に響く癒やし」

このような「人に寄り添う医療」の考え方は、音楽療法に深く根付いています。音楽療法の目的は、単に症状を緩和することではなく、その人の心に寄り添い、癒やしを届けることです。音楽は言葉を超えて感情に直接働きかける力を持っており、患者さんの心を穏やかにする手助けとなります。

職場での短い休憩時間に、好きな音楽を取り入れるだけでも、心のバランスを整えるきっかけになるかもしれません。音楽には、「一瞬で心を軽くする」力があるのです。

受動的音楽療法と自由連想法の組み合わせで改善と予防

音楽療法 には「受動的」と「能動的」の2つの方法があります。まずは、心を癒やし、ストレスを緩和するための 「受動的音楽療法」 からご紹介します。この方法は、音楽を聴くことでリラックス効果を引き出し、心のバランスを整えることを目的としています。

中でも注目されているのが、「受動的音楽療法」と「自由連想法」 を組み合わせた 「音楽によるイメージ誘導法(Guided Imagery and Music, GIM)」 です。このアプローチでは、リラックスした状態で音楽を聴き、心に浮かんできたイメージを自由に語ります。治療者はそのイメージに寄り添い、潜在的な感情の解放をサポートします。これにより、心の奥に潜む不安や緊張を和らげ、精神的なバランスを整える効果が期待できます。

音楽の心理的な効果 としては、緊張緩和、鎮静、催眠、不安の解消、抗うつ作用、さらには鎮痛効果などが挙げられます。音楽はストレスによって生じる心身の不調を和らげ、穏やかな心を取り戻す手助けとなります。かつては「音楽処方」として、不眠や不安に効く特定の音楽が推奨されたこともありますが、実際には 「癒やされる音楽」 は個人によって異なります。好きな歌や馴染みのある曲、気分転換に役立つ音楽など、その時々の気分や環境によって効果は変わってきます。

職場での短い休憩時間に、自分にとって心地よい音楽を聴くだけでも、ストレス軽減やリフレッシュに繋がります。音楽は簡単に始められる「心のケア」のツールとして、職場環境の改善にも大いに役立つのです。

音楽アプリの活用

RELAX WORLD MUSIC

“おはよう”から“おやすみ”まで、あなたの1日をトータルサポート
音楽アプリ「RELAX WORLD MUSIC」

癒やしと眠りの音楽アプリは、日々の様々なシーンに寄り添う音楽です。

聴いた時に心地良さを感じ、心身に良い効果があると言われているソルフェジオ周波数や、医学博士・専門家監修作品をはじめ、カフェミュージック、作業用・集中BGM、オルゴール、自然音など様々なBGMがあります。

音楽がもたらす様々な効果が活動と休息にメリハリをつけ、一日を締めくくる大切な睡眠がより良質なものになることが期待されます。

 「RELAX WORLD MUSIC」アプリ・音楽のジャンル

ヒーリングミュージック・ ソルフェジオ周波数音楽・クラシック&ピアノ・カフェミュージックなど…

能動的音楽療法 – 自由な自己表現で心を解放

能動的音楽療法 では、歌を歌ったり、楽器を演奏したりと、自発的な活動を通じて症状の改善を目指します。この方法は、積極的に音楽と関わることで、身体・精神・心理的に良い刺激を得ることができます。

特徴としては、誰でも気持ちよく自己表現ができ、改善がみられやすい 点が挙げられます。また、休憩時間など短い時間でも手軽に実践できるのが魅力です。

以下に、能動的音楽療法の具体例を示します。

  • 合唱
    中高年者や認知症の方に効果的です。地域の合唱団や音楽サークルで歌うことで、周囲との交流が生まれます。集団歌唱は社会的なつながりを強め、孤立感を減らすことにもつながります。
  • カラオケ
    歌唱自体を楽しめるだけでなく、記憶力や発声練習にも良い影響があります。自分の好きな曲を選んで歌うことで、気分が向上し、前向きな感情が引き出されます。また、社交性の向上にもつながります。
  • 楽器演奏
    ドラム、ギター、キーボードなどの演奏は、協調性や手先の器用さを高めます。特に簡単な楽器であれば、リズムに合わせた演奏も可能で、初心者でも楽しめます。
  • ダンス
    音楽に合わせて体を動かすことで、身体を動かす楽しさを再発見できます。リズムに合わせたダンスは、心拍数を上げる軽い運動にもなり、身体的な健康にも良い影響を与えます。

休憩時間などの短い隙間時間でも、これらの活動を楽しむことができます。同僚や友人と一緒に行えば、職場のコミュニケーションの活性化にもつながり、心のリフレッシュに役立ちます。自発的な音楽活動は、単なるストレス発散にとどまらず、心と身体のバランスを整えるための有効な手段となるのです。

「音楽が心に届く理由」 – 科学的根拠と職場での実践

「好きな音楽を聴くと気分が軽くなる」「お気に入りの曲で自然と元気が出る」——そんな経験は誰しもあるはずです。これは単なる感覚ではなく、科学的な根拠に裏付けられた現象です。音楽は脳や心に直接働きかけ、感情やストレス反応をコントロールする力を持っています。

音楽が心に効果的な理由

近年の医学研究では、音楽を聴くことで以下のような心身の変化が確認されています。

  • コルチゾールなどの抗ストレスホルモンの低下
    音楽を聴くことでストレスホルモンが減少し、心が落ち着きやすくなります。特にリラックス効果のある音楽は、緊張をほぐし、不安感を和らげる助けになります。
  • 脳の神経細胞の修復と再生
    音楽は脳の働きにも良い影響を与えます。神経細胞の修復や再生を促進し、脳の健康をサポートします。
  • 神経の可塑性(かそせい)の向上
    音楽を聴くことで、脳内の神経ネットワークが活性化し、新たな回路が形成されます。この「可塑性」が高まることで、さまざまな神経機能が改善します。

神経の可塑性の向上

以下のような具体的な効果をもたらします。

  • 記憶力や学習能力の向上(例:計算問題を解く、物の名前を覚える)
  • 運動機能の改善(例:運動学習や筋肉の動きの記憶)
  • 脳梗塞や脳出血による損傷の改善
  • 麻痺の回復

これらの機能改善には、繰り返しの練習や反復が重要ですが、音楽はそのプロセスを楽しくサポートしてくれます。

音楽は「心の薬」 – 日常に寄り添う癒やしの存在

音楽は、私たちの日常にそっと寄り添う「心の薬」です。好きな音楽を聴くだけで、気持ちが軽くなったり、前向きな気持ちになれたりすることがあります。これは単なる気分の問題ではなく、しっかりと科学的に裏付けられた現象です。

「今日はちょっと疲れたな…」 そんなときこそ、音楽の力を借りてみましょう。ゆったりとしたメロディや自分のお気に入りの曲に耳を傾けるだけで、心がほぐれ、自然と深呼吸したくなる瞬間があります。これは、音楽が脳内のリラックス反応を引き出してくれている証拠です。

「音楽には正解がありません」。自分にとって心地よい音楽を選ぶことが、何よりも大切です。仕事の合間に、休憩時間に、通勤途中に——日常のちょっとした瞬間に音楽を取り入れるだけで、心の負担を軽くし、前向きな気持ちを取り戻せるでしょう。

職場で「好きな音楽」を聴く効果と実践法

このような音楽の力は、職場のストレス対策にも活かせます。「好きな音楽を聴く」ことは、心のリフレッシュやストレス軽減に特に効果的です。音楽の種類やジャンルに正解はなく、自分が心地よいと感じる音楽を選ぶことが重要です。

🎵 職場での実践法

  • 短い休憩時間にお気に入りの曲を聴く
    → たとえ数分でも、好きな音楽を聴くことで脳がリフレッシュし、気持ちが軽くなります。
  • 集中したいときはテンポの良いインストゥルメンタルを
    → 歌詞のない音楽は集中力を高めるのに効果的。リズミカルなビートが作業効率を上げてくれます。
  • 気分転換には思い出の曲やお気に入りのアーティストを
    → 懐かしい音楽や特別な思い出のある曲は、ポジティブな感情を呼び起こし、心をリセットしてくれます。
  • リラックスしたいときはヒーリング音楽や自然音を
    → ゆったりとしたメロディや自然の音は、副交感神経を刺激し、リラックス効果を高めます。

出展:Music and Health
https://www.nccih.nih.gov/health/music-and-health-what-you-need-to-know

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おわりに

現代社会では、大きな変革の中で多くの人がストレスを抱えています。心身医学的な対応が必要とされる今、「音楽」は心のケアに有効なツールです。受動的音楽療法や自由連想法を活用したイメージ誘導法、さらに合唱やカラオケ、楽器演奏、ダンスなどの能動的音楽療法も、心を癒やす手助けになります。

私の師匠である日野原重明先生の教えと、高木兼寛の「病気を診ずして病人を診よ」という理念を胸に、音楽療法を通じて一人でも多くの方の心が軽くなり、安らぎを感じていただけることを心から願っています。

音楽の力を信じ、職場でも日々の生活に取り入れてみてください。それが、心のバランスを整える第一歩になるはずです。

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執筆

板東 浩(ばんどう ひろし)のアバター 板東 浩(ばんどう ひろし) 医学博士 日本統合医療学会四国支部長

徳島県糖質制限研究会代表 ​ 徳島大学卒業、ECFMG資格取得後、米国でfamily medicineを臨床研修。専門領域はアンチエイジング、糖質制限、音楽療法、スポーツ医学など。アイススケート選手として国体出場(1999 ~ 2003)。第9回日本音楽療法学会大会長(2009)。第3回ヨーロッパ国際ピアノコンクール(EIPIC)in Japan銀賞(2012)。日本プライマリ・ケア連合学会大会長(2017、高松)。 糖尿病関係の英文医学雑誌4誌のEditor-in-Chief(編集長,2024)。著書30冊以上、印刷物2,000以上、英語論文500以上。「新老人の会」徳島代表。

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