“静かすぎると眠れない”の理由と、心地よい夜のつくり方

医学博士でピアニスト、音楽療法士の板東浩です。
現代の私たちは、常に何らかの音に囲まれて生きています。都市の環境音やスマートフォン通知、テレビやBGMなど、静寂そのものが希少な時代です。こうした環境の中で、睡眠の質が低下する人が増えています。睡眠科学と音楽療法の観点から「夜の静けさ」が脳に与える影響を解説します。

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夜寝る前に「音を消すと眠れない」人が増えている

美しい風景を見れば気持ちが整うように、心が和む音を心地よい音環境で聴くと、多くの人がリラックスできます。従来は「静かな環境」が最も眠りに適すると考えられていました。しかし近年、「静かすぎると逆に眠れない」という声が増えてきました。その背景には、脳が日中の刺激に慣れ、静寂を“異常な状態”として判断してしまうメカニズムがあります。

都市部では常に微細な刺激音が存在し、夜になり急に無音になると、脳が警戒モードに切り替わることがあります。これは「静寂ストレス(silence stress)」と呼ばれ、完全な無音空間で精神に不調が出るという古い実験結果も存在します。

最近の心理生理学研究では、完全な無音より「環境音を伴う静けさ」が安心感をもたらし、入眠時間を短縮することが分かってきました。つまり、睡眠前の音環境において重要なのは「音の量」ではなく「音の質」です

静けさの中に微かな音があると安心が生まれる

静けさの中に、ささやかな自然音や穏やかなBGMが加わると、脳は安心しやすくなります。これは「ホワイトノイズ」や「ピンクノイズ」と呼ばれ、一定の音圧を保つ特徴があり、外界の突発的な物音をマスキングする働きがあります。突然のノイズに気づきにくくなるため、眠りを妨げにくいのです。

また、せせらぎ・波の音・雨音・森のざわめきといった自然音系BGMは、呼吸や心拍を安定させ、副交感神経を優位に導きます。音楽療法では、これらの音が“安心のリズム”となり、情動を落ち着かせる役割があると考えられています。

実際、1/fゆらぎを含む音楽を入眠前に聴くと、睡眠の深さが増し質が向上するという臨床研究があります。私自身もかつてその研究に参加していました。つまり、「静けさ × 微かな音」という“ちょうどいいバランス”こそが、心身の再生を最も促す条件といえるのです。

最新研究が示す“静寂そのもの”の脳への作用

近年の神経科学では、「静寂そのもの」も脳にとって重要な働きを持つことが分かってきました。たとえば、マウスを完全な静寂状態で2時間過ごさせた研究では、記憶と感情に関わる海馬で新しい神経細胞の増加が確認されました(Brain Struct Funct., 2015)。静けさは単なる無音ではなく、脳が休息し再構築するための“積極的な回復プロセス”を支える状態と考えられるのです。

さらに、睡眠脳波研究では、夜の静寂が深い睡眠時の“スローウェーブ(徐波)”を安定させることが報告されています。スローウェーブが整うと、脳内の老廃物を除去するグリア細胞の働きが高まり、いわゆる“脳の洗浄”が促進されます。

これらの研究から、「夜の静けさ」は単なる休止状態ではなく、記憶の整理・脳の修復・情動の安定といった、自己回復プロセスを最適化する環境だと示唆されます。音と静寂は対立するものではなく、両方が脳の健康に関わる重要な要素なのです。

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まとめ

音と静寂はどちらも、心身の健康を支える大切な要素です。日中は自然音や穏やかな音楽が情動を整え、夜は静けさが脳の再生を促します。鍵となるのは、音を減らすことではなく「音の質とタイミング」を整えること。静寂を“音の延長にある癒やし”と捉えることで、新しいウェルビーイングの可能性が広がります。

参考文献
Kirste I, Nicola Z, Kronenberg G, Walker TL, Liu RC, Kempermann G.
Is silence golden? Effects of auditory stimuli and their absence on adult hippocampal neurogenesis.
Brain Struct Funct. 2015 Mar;220(2):1221–1228.
doi: 10.1007/s00429-013-0679-3
PMID: 24292324; PMCID: PMC4087081
(PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24292324/

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【静寂のマジックアワー】月夜と黄昏の調べ | @RELAX_WORLD

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執筆

板東 浩(ばんどう ひろし)のアバター 板東 浩(ばんどう ひろし) 医学博士 日本統合医療学会四国支部長

徳島県糖質制限研究会代表 ​ 徳島大学卒業、ECFMG資格取得後、米国でfamily medicineを臨床研修。専門領域はアンチエイジング、糖質制限、音楽療法、スポーツ医学など。アイススケート選手として国体出場(1999 ~ 2003)。第9回日本音楽療法学会大会長(2009)。第3回ヨーロッパ国際ピアノコンクール(EIPIC)in Japan銀賞(2012)。日本プライマリ・ケア連合学会大会長(2017、高松)。 日本心身医学会 中国四国地方会大会長(2023)。糖尿病関係の英文医学雑誌4誌のEditor-in-Chief(編集長,2024)。著書30冊以上、印刷物2,000以上、英語論文500以上。「新老人の会」徳島代表。

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