医学博士の板東浩です。
私たちの生活や仕事のパフォーマンスを支える上で、睡眠は欠かせない要素です。質の高い睡眠は、集中力や判断力を高めるだけでなく、身体の回復や健康維持にも重要な役割を果たします。
その好例が、大谷選手の卓越したパフォーマンスです。2024年には50-50という前人未到の大記録を達成し、世界中を驚かせました。その活躍の陰には、徹底した自己管理と質の高い睡眠ルーティンがあることが知られています。試合やトレーニングにおける集中力と判断力を支える鍵が、睡眠の質にあるのです。
本記事では、睡眠の質を左右するカギ「オレキシン」に注目し、その仕組みとパフォーマンス向上との関係を詳しく解説します。
良質な睡眠が仕事のパフォーマンスを上げる理由
近年、スポーツ選手や経営者の間で注目されているのが「パフォーマンス向上型睡眠」です。たとえば、世界の空港で急増する睡眠ポッドやプロアスリートによる睡眠最適化ルーティンなどがその一例です。
アスリートの場合、通常の7時間睡眠を46~113分(11~27%)増やしたり、睡眠不足の翌日に20分程度の昼寝を取り入れることで、パフォーマンスの維持や向上につながる可能性が示されています。こうした睡眠環境の最適化は、集中力や判断力を向上させ、競技や業務の成果に大きく貢献しています。
The Impact of Sleep Interventions on Athletic Performance: A Systematic Review
医学的背景
医学的には、オレキシンが睡眠と覚醒のリズムを調整する重要な役割を果たします。適切な分泌によって深いノンレム睡眠が促され、記憶の整理や情報の定着がスムーズに行われます。その中でも、90分ごとに繰り返されるレム睡眠が重要な鍵となります。
一方で、オレキシンの不均衡は、日中の眠気や集中力の低下を引き起こし、睡眠の質にも影響を与える可能性があります。これにより、翌日のパフォーマンスにも直結するため、オレキシンのバランスを整えることが重要です。
データで見る睡眠時間とパフォーマンス
睡眠時間の重要性
現代社会では、忙しい生活の中で睡眠時間が削られる傾向があります。しかし、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、十分な睡眠時間の確保は健康維持と日中のパフォーマンス向上に直結しています。
睡眠時間とパフォーマンスの関係
調査データによれば、成人における理想的な睡眠時間は7~9時間とされています。これを下回る場合、集中力や判断力の低下、ストレスの増加が顕著になるとの報告があります。一方、十分な睡眠をとることで、仕事の生産性や学習効率が向上することが分かっています。
日本人の平均睡眠時間
2023年の統計では、日本人の平均睡眠時間は約6時間30分であり、理想的な睡眠時間に満たないケースが多い状況です。特に20代~40代の働き盛り世代では、慢性的な睡眠不足が深刻な課題となっています。
健康づくりのための睡眠ガイド2023
睡眠対策 睡眠対策について紹介しています。
職場で活用できる睡眠テクニック
職場環境での睡眠改善策として、「パワーナップ(短時間の昼寝)」が注目されています。この手法は、NASAの研究を起源とし、現在では世界中で広く実践されています。パワーナップは、15分から20分程度の仮眠を取ることで、集中力や記憶力の回復に寄与します。
パワーナップのポイント
- 時間: 15~20分以内に抑える。
- 環境: 静かで暗い場所を選ぶ。
- 後処置: 仮眠後にカフェイン摂取で覚醒効果を補強。
さらに、オレキシンの働きがパワーナップ後の覚醒状態を支えます。仮眠によって一時的に睡眠負債を解消し、その後カフェインを摂取することで覚醒効果が補強されるとされています。また、パワーナップはスペインの伝統的な昼休み「シエスタ」にも関連があり、これが文化的背景として影響を与えています。
シエスタって?
シエスタとは、スペインをはじめとした地域で伝統的に行われてきた昼食後の短時間の休息のことです。この習慣は、午後の集中力を高める効果があり、15分から20分程度の仮眠を取ることで脳のリフレッシュが期待できます。最近では、シエスタの考え方が世界中で注目されており、仕事の効率向上にも取り入れられています。
日本国内でも、仮眠スペースを設置したり、リラクゼーションルームを提供する企業が増加しています。ハーバード大学の研究では、短時間の仮眠でも脳内の記憶形成が活性化し、創造的な思考が促進されることが示されています。このような職場での工夫は、オレキシンを活用した効率的な働き方を可能にする手段となります。
睡眠の質を高める日常ルーティン
「ぐっすり眠ること」を英語でsound sleepと言います。この”Sound”には、「ぐっすり」「健全な」「音」「音楽」など、多様な意味が込められています。良質な睡眠を得るためには、いくつかの工夫を取り入れることが大切です。特に以下の3つの要素がポイントになります。
- 光:朝の光を浴びることで、オレキシンの分泌を適切にコントロールし、体内時計を整える。
- 音:リラクゼーション音楽を活用して心身を落ち着かせる。
- 睡眠ホルモン:ブルーライトを避け、メラトニンの分泌を促す環境を整える。
良質な睡眠を得るためには、日常生活における工夫が欠かせません。たとえば、朝起きたらまず窓を開けて朝日を浴びることで、体内時計をリセットできます。一方、夜はスマホやパソコンなどのブルーライトを控え、リラックスできる環境を作ることが重要です。また、寝室の照明を暗めに設定することで、メラトニンの分泌が促され、自然な眠りに導かれます。
日常で取り入れる工夫(リスト)
- 朝の光を浴びる。
- スマホやPCなどブルーライトを就寝前に控える。
- 就寝前のリラクゼーション音楽を活用。
- シエスタ(短時間の昼寝)を取り入れる。
- アロマセラピーを活用してリラックス環境を整える。
音楽を活用したリラクゼーションのポイント
音楽は心身をリラックスさせ、睡眠の質を高めるための強力なツールです。以下のポイントを参考に、音楽を日常に取り入れてみましょう。
- 音楽の選び方: 歌詞のないインストゥルメンタル音楽や自然音を含む楽曲がおすすめです。
- タイミング: 就寝30分前に音楽を聴き始めると、リラックス効果が高まります。
- おすすめ: 音楽配信サービスで提供されているリラクゼーションプレイリスト。
- 注意点: ブルーライトを控えるためタイマー機能などを活用しましょう。
音楽を使ったリラクゼーションは、オレキシンの分泌を整え、心地よい眠りに導いてくれます。
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これらの工夫は、オレキシンの分泌を適切にサポートし、仕事や生活のパフォーマンス向上につながる質の高い睡眠を実現するための鍵となります。
おわりに
オレキシンは、睡眠と覚醒のバランスを整え、仕事や日常生活のパフォーマンス向上に重要な役割を果たします。シエスタやパワーナップなどの短時間休息、朝の光を浴びること、リラクゼーション音楽やアロマの活用などを取り入れることで、睡眠の質を高めることができます。無理なく続けられる習慣を意識し、心地よい毎日を目指しましょう。
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