世界が注目する静けさ──『音の空間』が拓く創造性とウェルビーイング

医学博士でピアニスト、
音楽療法士の板東浩です。

世界のラグジュアリーブランドやウェルビーイング先進企業が
いま最も注目しているのは「静けさ」と「音」。

音はただのBGMではなく、
創造性や集中力を高め、心身をリセットする新しい贅沢。

本コラムでは、その世界的トレンドと、日常に取り入れるヒントを紹介します。

目次

Quiet Luxuryとサウンド・ウェルネスの台頭

静けさがラグジュアリーの象徴に

これまで高級ブランドは、ロゴや装飾など視覚的な華やかさで価値を競ってきました。
しかし近年は、過剰な刺激を抑えた余白と静けさが上質さの証しとされています。

静かな空間は集中力を高め、ストレスを和らげると心理学的にも報告され、
世界のラグジュアリーホテルや上質な住空間づくりにも生かされています。

音がブランド体験を変える

静けさの価値は音のデザインにも広がっています。
店舗BGMやサウンドロゴ、ホテルのロビーに漂う環境音など、
あらゆる音の細部がブランドの世界観を形づくります。

海外の調査では、静かな空間は集中力を高め、
ストレスを和らげる効果が心理学的にも示されています[1]
近年では、ラグジュアリーホテルや上質な住空間の設計に取り入れられています。

こうした知見は「Quiet Luxury」という潮流を支える科学的根拠となり、
視覚中心だった高級体験を聴覚と静けさが主役の体験へと進化させています。

視覚中心から五感を満たす空間設計へ

五感で感じるデザインへ

これまで空間演出は視覚中心でしたが、
人が深い癒やしを実感するには耳・鼻・肌・舌・目という五感の統合が欠かせません。

医学的には、わずか2分間の静寂が心拍や血圧を安定させ、
音楽以上のリラックス効果をもたらすとの報告もあります[2]

しかし、その静けさを基調に心地よい音楽を重ねることで、さらに効果は広がります。
穏やかな旋律や自然音を取り入れた音楽は、自律神経をよりやさしく整え、
心身を深いリラクゼーションへ導きます。

静けさと音楽が補い合うことで、
空間はただの休息の場を超え、心を養う体験へと変わるのです。

職場に広がるサウンド・ウェルネス

静けさの効用は家庭だけでなく、職場にも広がっています。
欧米では、社員のウェルビーイング向上を目的に、
先進的な企業がサウンドバス(音響浴:全身を音の振動で包む休息法)を導入しています。
これにより、短時間で深いリフレッシュ効果が得られ、
従業員のストレス軽減や集中力の回復に役立てられています。

また、シンギングボウル(金属製の共鳴器を使った瞑想音)によるセッションは、
緊張や疲労を和らげ、幸福感を高める効果が確認されています[3]

音と静けさの組み合わせは、ただの“気休め”を超えて、
仕事のオン/オフ切り替えや心の余白づくりにおいて、 実践的なウェルビーイング戦略となるでしょう。

宇宙の周波数(432Hz)によるシンギングボウル音楽作品をご紹介

体の約70%が水でできた私たちに、最も心地よいと言われる周波数。
静けさと光が交差する、癒やしの音の旅へ。
“宇宙の周波数”とも呼ばれる432Hzでチューニングされた音を基調に、
シンギングボウルの豊かな倍音や、アンビエントならではの“音の余白”が丁寧に重ねられています。

情報過多社会における「余白」としての音

静けさが脳をリセットする

私たちは一日中、通知音や大量の情報にさらされています。
脳は休む間もなく働き続け、疲労が蓄積します。

自然音がストレス反応を軽減するほか、
静寂が脳の学習・記憶を司る海馬の神経新生を促す可能性も報告されています[4][5]

静けさは“何もしない時間”ではなく、
脳を修復し、新しい発想を生む再起動の時間なのです。

デジタルデトックスとサイレントリトリート

こうした効果を日常に取り入れる方法として、
デジタルデトックス(スマホやSNSを一定時間手放す習慣)や
サイレントリトリート(会話を控え静かに自分と向き合う滞在)が広がっています。

スマホやSNSから一時的に離れ、
静かな環境で自分と向き合うことで、
心は本来のペースを取り戻し、創造力や自己肯定感が高まることがわかっています。

静かな音環境は、心を解放するだけでなく、
人生を深く見つめ直す思索の場にもなるのです。

Tips:命の洗濯という言葉
日本には、心身の疲れや束縛から解放されて命をリフレッシュする
「命の洗濯」という表現があります。
江戸時代のことわざ辞典や井原西鶴『好色一代男』にも登場し、
現代では山田詠美の短編小説『命の洗濯、屋』(2015)にも描かれています。
英語でも
I’m going on a silent retreat to clear my head.
(頭を整理するためにサイレントリトリートに行く)
という言い回しがあり、命・心・頭といった言葉が
人生を整える広い意味で使われています。

おわりに

Quiet Luxuryとサウンド・ウェルネスの融合は、
家庭や職場、都市空間にまで広がり、
私たちの未来の暮らし方を塗り替えるでしょう。

音を「聴く」から「感じる」へ。
その一歩が、豊かな発想と美しい仕事を育てます。

また、静かな音環境により
心の平穏、心身の疲労回復、自己肯定感の向上、集中力アップ、睡眠の質の改善など、
多面的な効果が期待されます。

心のオン/オフを上手に切り替え、
心身ともに美しい仕事を生み出すためには、
“Quiet Luxury × サウンド・ウェルネス”の掛け算──
つまり余裕や心の余白、ブランクを意識したライフスタイルが鍵となります。

忙しい日常の中でほんの数分でも
静かな音楽や自然音に耳を澄ませることは、
脳を休ませるだけでなく、
感性を呼び覚ます小さな再起動の儀式。

静けさと音楽を味方に、
日々の暮らしをより健やかで、美しいものへと
やさしくアップデートしていきましょう。

参考文献

[1] Openroad Psychology (2023). The Mental Health Impact of the Quiet Luxury Trend.
→ “Quiet Luxury(静かな贅沢)”は余計な刺激を排した空間が集中力やストレス軽減に役立つ心理的効果を持つ
URL: https://www.openroadpsych.com/blog/the-mental-health-impact-of-the-quiet-luxury-trend-what-we-can-learn-from-the-shift-in-fashion

[2] Bernardi, L., Porta, C., & Sleight, P. (2006). Cardiovascular, cerebrovascular, and respiratory changes induced by different types of music in musicians and non-musicians: the importance of silence. Heart.
→ 2分間の静寂が血圧や心拍数を安定させ、音楽以上のリラックス効果を発揮
URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16199412/

[3] Effects of Singing Bowl Sound Meditation on Mood, Tension, and Well-being: An Observational Study
→ シンギングボウルを使ったサウンド・メディテーションが、緊張、怒りなどを軽減し、幸福感を高める
URL: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5871151/

[4] Alvarsson, J. J., Wiens, S., & Nilsson, M. E. (2010). Stress Recovery during Exposure to Nature Sound and Environmental Noise. International Journal of Environmental Research and Public Health.
→ 自然音はストレス反応を軽減し、人工的な騒音環境よりも心身を落ち着かせる
URL: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2872309/

[5] Kirste, I. et al. (2013). Is silence golden? Effects of auditory stimuli and their absence on adult hippocampal neurogenesis. Brain Structure and Function.
→ 静寂が海馬での神経新生を促し、学習や記憶に好影響を与える可能性を発見
URL: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4087081/

Supplement…

癒やしの映像と音楽でリフレッシュタイム・・・

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【雨の港】夜の静けさに包まれて
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執筆

板東 浩(ばんどう ひろし)のアバター 板東 浩(ばんどう ひろし) 医学博士 日本統合医療学会四国支部長

徳島県糖質制限研究会代表 ​ 徳島大学卒業、ECFMG資格取得後、米国でfamily medicineを臨床研修。専門領域はアンチエイジング、糖質制限、音楽療法、スポーツ医学など。アイススケート選手として国体出場(1999 ~ 2003)。第9回日本音楽療法学会大会長(2009)。第3回ヨーロッパ国際ピアノコンクール(EIPIC)in Japan銀賞(2012)。日本プライマリ・ケア連合学会大会長(2017、高松)。 日本心身医学会 中国四国地方会大会長(2023)。糖尿病関係の英文医学雑誌4誌のEditor-in-Chief(編集長,2024)。著書30冊以上、印刷物2,000以上、英語論文500以上。「新老人の会」徳島代表。

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